こんにちは、院長の小西です。
今回は歯を失ったときの治療方法の1つである『ドイツ式入れ歯』の解説をしていきます。
私は一般歯科を始め、多くの診療内容を行っていますが、入れ歯やインプラント、ブリッジといった歯が欠損した患者さんへの治療(欠損補綴治療)を得意としています。
このドイツ式入れ歯は、インプラントやブリッジにはないメリットがあり、インプラントやブリッジができない、したくない方にとって欠かせない治療の選択肢の1つです。
この記事の内容は、
- ドイツ式入れ歯、コーヌステレスコープとは
- 一般的な部分入れ歯と比べたテレスコープの特徴
- ドイツ式入れ歯日本での良くない評判、その原因
- ドイツ式入れ歯にはいくつかの種類がある
- ドイツ式入れ歯で失敗しないために重要なこと
- 実際の症例、治療費用
- 歯科医師向け
以上について書いています。
ドイツ式入れ歯(テレスコープ義歯とは)
ドイツ式入れ歯とは、患者さんにわかりやすく伝えるための通称で、歯科業界では一般的にテレスコープ義歯やテレスコープデンチャーと言われます。
デンチャーとは『入れ歯・義歯』のことで、テレスコープは日本語訳の通り『望遠鏡』から由来していると言われています。
テレスコープデンチャー(以下、テレスコープ)を装着する歯にかぶせるキャップ(内冠と言います)が望遠鏡のような先細りの形をしていることからです。
テレスコープの構造は内冠と、その内冠の上から装着して取り外しができる義歯(外冠)で成り立ちます。
二重構造のため、海外ではダブルクラウンとも言われます。
なぜ、二重構造なのか、というところです。
もともと部分入れ歯というのは、残っている歯を支えにするために、針金のようなバネ(クラスプ)を歯にひっかけて入れ歯が外れない仕組みです。
しかし、その仕組みでは入れ歯が動いたり、支えている歯を悪くしてしまうことが考えられます。
そこで、残っている歯に内冠をかぶせて、その上から外冠を装着することでより安定させようという目的です。
テレスコープの代表的なのが、コーヌステレスコープ(コーヌスクローネ)という種類です。
これは、ドイツのキール大学のKarlheinz Körberという教授が考えだし、その歴史は50年以上もたった今もヨーロッパを中心に盛んに行われています。
コーヌステレスコープの特徴とは
コーヌスクローネの特徴は、大きく分けて2つです。
①針金のようなバネ(クラスプ)を使用しない
②残った歯が抜けても簡単な修理で対応可能
この2つを一般的な部分入れ歯と比較しながら解説します。
①針金のようなバネ(クラスプ)を使用しない
クラスプを使用しないため、クラスプ義歯と比べ見た目が自然です。
クラスプを使用していなくても義歯は簡単には取れません。
内冠、外冠の適合(くさび力)のみで義歯が固定されます。そのため、入れ歯用接着剤は必要ありません。身近にあるもので言えば、お茶っぱの缶が簡単に取れない仕組みと似ています。
食事中や会話時には取れにくいですが、患者さんの指の力(約600g~1kg)で外冠を外すことができ、内冠が被さる歯のお掃除ができます。
内冠は歯に接着剤でくっつけているため外れません。当院で治療するテレスコープは、歯ブラシ等でのお掃除以外は外すことはありません。義歯を外さなくていいということは患者さんにとって、身体的そして精神的にも大きなメリットと考えられます。
また、クラスプ義歯は歯を横に揺さぶる動きが加わります。
そのため、歯を痛める可能性が高くなります。コーヌスクローネは歯の軸つまり垂直方向から力がかかるため、クラスプ義歯よりも歯を痛める可能性が少ないと海外の多くの臨床経過報告でも報告されています(参考文献1)
②残った歯が抜けても簡単な修理で対応可能
クラスプ義歯では支えにしている歯にバネをかけているため、その歯が弱り抜歯しなければならなくなった場合、再び違う歯にクラスプをかけるため入れ歯を作り直しする必要があります。
しかし、コーヌスクローネは原則として多くの歯を支えとしているため、もし歯が悪くなっても外冠の内冠が入る内側の穴を埋める簡単な修理で済むことが大半です。
ドイツ式入れ歯日本での良くない評判、その原因
このようなメリットが多いコーヌスクローネですが、日本では1980年代に歯科業界の中で大流行しました。
しかし、数年後にはこのコーヌスクローネは良くないという理由で廃れていきました。
今もなお、多くの歯科医師の中ではネガティブなイメージが根付いているように感じます。
また、現在ではロストテクニック(過去の技術)というイメージから、我々若い世代の歯科医師は見たことも聞いたこともない先生方がいるのも少なくありません。
しかし、テレスコープはドイツを中心に今もなお盛んに臨床応用されており、10年予後は92.9%と非常に高い数値を示されています(参考文献2)
では、なぜそのようなネガティブなイメージが日本で根付いてしまったのでしょうか。
様々な先生方に聞くと、その理由の多くは、予後が良くない、うまくいかないというものです。
一見、コーヌスクローネは簡単な治療に見えますが、実は非常に高度な技術と知識を必要とします。
ドイツ式入れ歯で失敗しないために重要なポイント
コーヌスクローネで失敗しないために重要なことはいくつもありますが、今回は3つだけ説明します。
①支える歯を大きく削りすぎない、歯の神経はとってはいけない
②コーヌスクローネの適応症と禁忌症を守る
③コーヌスクローネに固執せず症例に応じて、他のテレスコープの種類を使い分ける
①支える歯を大きく削りすぎない、歯の神経はとってはいけない
これは非常に重要です。コーヌスクローネをはじめとするテレスコープは二重構造となるため、歯に内冠を装着するために、被せている歯ならその被せ物を外すだけでいいのですが、天然歯の場合削る必要があります。
そこで、二重構造という理由から、歯科医師は歯を過剰に削る傾向になってしまいます。
ここがポイントで歯を削る量は最低限で、そのために歯の神経をとることは得策とは言い難いです。
長持ちさせるために、コーヌスクローネの内冠を入れる歯の神経は生きている(生活歯)こと、歯の厚みをしっかり残すことが理想です。
1980年代のブームでは、歯を削りすぎていたことによって予後が良くなかったということが1つの原因として考えられます。
私が行う二重構造による厚みに対する臨床の工夫は、外冠のフレーム構造やデザインに取り入れています。
また、当院では歯を削る機械も重要視しています。歯を削る時は必ず熱と振動が歯に生じます。その熱と振動が大きいと歯を痛めやすいため、歯を削る機械から十分に水が出て冷却ができる、そして歯を削るバー(棒)の軸ブレが少ないKaVoの診療台を使用しています。このKaVoはドイツ製品で車業界でいうとメルセデスベンツと同じ高級ブランドになるため、導入されている歯科医院も少ないという実情です。
歯を削りすぎない、痛めない工夫が重要です。
②コーヌスクローネの適応症と禁忌症を守る
このコーヌスクローネはどのような症例にも万能ではなく、禁忌症や不向きな症例が存在します。
コーヌスクローネを開発したドイツのKarlheinz Körber教授も、かつてドイツでも日本のようなブームが起きた際に、多くの文献でこのことについて警鐘を鳴らしていました(参考文献3)
例えば、歯の本数が少ない、グラグラの歯が多いなどの症例はコーヌスクローネは推奨されません。
しかしながら、当院にご相談いただく他院で行った予後不良のテレスコープの患者さんには、このような症例がしばしば見受けられます。これも過去に日本で起きたコーヌスクローネが廃れた一因となっているのではないかと考察しています。
③コーヌスクローネに固執せず症例に応じて、他のテレスコープの種類を使い分ける
それでは、そのような症例の場合、どのように対応するかというところです。この対策として他のテレスコープの種類を適用させることが重要です(参考文献4)
テレスコープにはコーヌスクローネだけではなく、レジリエンツテレスコープ、リーゲルテレスコープといった様々な種類があります。
例えば、歯の本数が少ない方や、歯の本数は多いも弱い歯が多い方などはレジリエンツテレスコープが理想です。
奥歯の2本程度のみ失った方はリーゲルテレスコープ、といったように症例に合わせて、テレスコープの種類の選択そしてデザインすることがポイントです。
ドイツ式入れ歯にはいくつかの種類がある
日本では一般的にコーヌスクローネのみしか知られていないことから、この他のテレスコープの種類を使い分けるということが非常に難しく、知っていたとしても術者の知識、技術、センスによって大きく設計が変わっています。
このようにドイツ式入れ歯には様々な種類があり、治療でコーヌスクローネを検討されている方は医院選びから、歯科医師の技量が重要となってきます。
ドイツ式入れ歯を検討される場合は十分に説明を聞く
今回、ドイツ式入れ歯について解説いたしました。
ドイツ式入れ歯は保険外診療で治療費が高額です。またその特性上、後戻りができません。ですから、される前は歯科医師から十分に説明を受け、メリットだけではなく、デメリットや考えうるリスクについてもよく説明を受けることをおすすめします。
当院では、必ずデメリットや考えうるリスクは文書で説明し、患者さんが理解した上で治療をすすめております。
また、治療方法はテレスコープのみではなく、他の入れ歯の治療方法やインプラント治療もあることが大半です。
どのような治療でもデメリットやリスクがない治療方法はないので、よくご相談して患者さんに合った治療方法をご一緒に選んでいければと思っています。
以下のリンクもご参照ください。
【歯科医師向け】
テレスコープの臨床手順や症例の選択は原則は決まっています。これは材料や医療機器の進化にも関わらずほとんど変わっていません。
しかし、この原則を守らず自己流でされる先生方は少なくありません。もちろん予後良好であれば再考する必要性がでてこないかもしれません。
現在、私自身臨床でインプラント治療を多く行いますが、インプラント治療以外の選択肢を持つこと、本場ドイツで行われているテレスコープを知ることで患者、術者の恩恵は大きいと考えています。
実際、過去には私自身テレスコープを知らない、懐疑的なイメージを持っていました。しかし、今では多くの患者を治療し、本場ドイツのハイデルベルク大学病院で得た知見も活かし臨床に取り入れています。
また、学会やコンペティションにてテレスコープの症例でも多くのアワードを与えていただきました。そして現在、学会や様々なスタディーグループにて、多くの依頼講演や依頼執筆を受けています。
たしかにテレスコープは簡単な技術ではありませんが、きちんとした知識と技術があれば手が届かないものではありません。
これからテレスコープを臨床に取り入れる、再度本格的に取り入れたいという先生方は、微力ではありますが、私の知識と技術を惜しみなくお伝えできればと思っています。
(参考文献1〜4)
(1)Behr M*, Kolbeck C, Lang R, Hahnel S, Dirschl L, Handel G. *Regensburg University:Clinical performance of cements as luting agents for telescopic double crown-retained removable partial and complete overdentures. Int J Prosthodont. 2009;22(5):479-487.
(2)K.Körber :Konuskronen Das rationelle Teleskopsystem Einführung in Klinik und Technik 1983
(3)B Wagner*, M Kern *Albert-Ludwig University Freiburg:Clinical evaluation of removable partial dentures 10 years after insertion: success rates, hygienic problems, and technical failuresClin Oral Investig. 2000 Jun;4(2):74-80
(4)小西 浩介:テレスコープデンチャーを臨床に活かすポイント ~症例で使い分けたい各種システム~ デンタルダイヤモンド12月号, p158-165, 2019
以下のリンクもご参照ください